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・新生児期の神経回路はどのように構築され、高次機能を獲得していくのか?

 

出生後の脳は、過剰な神経突起やシナプスを形成して、煩雑な神経回路網を構築していきます。その後、様々な環境刺激に応答しながら、不必要な神経回路やシナプスが取り除かれ、秩序だった神経回路網が完成されます。この時、新生児や幼児が、適切な時期に適切な刺激を受けないと、本来獲得すべき機能、あるいは獲得することができる機能を損なうことになります。例えばヒトでは、出生後から幼若期に至る間の光刺激は、大脳皮質視覚野の機能を成熟させる上で必須の刺激として知られています。この時期に光刺激を完全に遮蔽してしまうと、その後、光刺激を与えても正常な視覚機能が回復することはなく、光を遮蔽された目は弱視となります。また言語なども幼若期から12歳程度までの間が言葉を覚える上で適切な時期であり、この時期を逃してしまうと母国語以外の言葉を覚えることが難しくなってきます。一般に、このように様々な刺激に対して神経細胞の可塑性が一過的に高まる時期のことを「臨界期」と呼ばれて、視覚や聴覚をはじめとする一般的な感覚機能、さらには言語能力や運動機能、感受性など個性に関連付けられる機能にも影響を与えることが最近の研究から明らかになってきました。

 近年、この臨界期を制御する要因として、環境刺激に応答した神経細胞の興奮と抑制のバランス、また神経伝達物質などの関与が示唆されています。実際、これら関連遺伝子を破壊したマウスでは、臨界期に関連づけられた現象に変化が見られます。一方、これまでに検証されている現象が、環境応答に連動した高次脳機能の獲得に対して完全に応えることができるのか、解明されていない点が数多く残されています。

 

・グリア細胞はどのように神経回路網構築や高次脳機能の獲得に貢献しているのか?

 

私たちは、環境刺激に応答した神経回路網の構築にグリア細胞が重要な役割を担っているのではないかと考え、研究を進めています。グリア細胞とは脳内で神経細胞の5倍から10倍存在すると見積もられています。グリア細胞には、神経細胞と同じ神経幹細胞から分化するアストロサイトやオリゴデンドロサイト、また卵黄嚢を起源とするミクログリアなどが存在しています。近年、これらグリア細胞は環境刺激によって活性化した神経細胞と連動し、様々な役割を担うことが示唆されています。私たちは、これらグリア細胞の中でも、特にミクログリアに着目しています。ミクログリアは、脳内の炎症応答、死細胞や不要物質の除去などに作用する免疫担当細胞です。しかし近年、発達期シナプスの構築や除去、神経回路形成の補助などにも関わることが明らかとなってきました。私たちは、ミクログリアが発達過程においてどのように神経回路構築や高次脳機能獲得、脳内恒常性維持に貢献しているのか、制御因子を同定し、細胞レベル、個体レベルでメカニズムを明らかにしていきたいと考えています。

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